────生きている証 ──── 見上げた空はやっぱり青かった-リンク作 滅びと再生の、相反する未来を願う者同士の激戦。 戦って、戦って・・・ 戦いが終わっても・・・その痕は残る。 傷や、疲れ切った心──── だけど、任務は次から次へと訪れ 傷も───心も癒す時間さえも与えてくれない。 生きている実感すら感じられぬまま・・・。 「アレンくん?」 任務地の宿の食卓テーブルで夕食を食べ終え、 そのままどこを見ているかとも言えない目をして黙って座っているアレンに リナリーは声を掛けた。 「どうしたの。ボーっとしちゃって」 アレンの目の前の席に座っているリナリーに言われて初めて、 銀灰色の目にいつもと同じ活発な目を向ける。 それでもどこかよそよそしい。 「あぁ、ごめん。ちょっと考え事・・・かな?」 おどけなく微笑むアレン。 どんな時でも笑っているアレン。たとえ、自分が辛い時でさえ・・・──── それを知っているリナリーは、少し胸が痛む。 同時に、ムッとした感情がリナリーには湧き上がる。 それでもその感情は抑え、もう一度---今度は少し違う問い方で尋ねた。 「考え事・・・?どんな?」 聞かれたアレンは、今度こそハッキリと苦笑しながら言葉を濁す。 そんなアレンを見て、リナリーは溜息をつく。 「いいから喋ってみて。一人で抱え込まないで、アレンくん」 エクソシストは一人一人、何かを背負っている。 重い過去、願い、宿命・・・沢山の事を。 言葉で表しても全てを表す事が出来ない。 でも、だからこそ同じ仲間と少しでも悩みや不安───苦悩を分かち合う事も大切なんだ。 本当の心が抱える闇に当たる部分にはお互い触れられないとしても。 「リナリー・・・」 そう思っているのはリナリーだけではない。 アレンも、教団にいる全ての仲間の人達だってそう思っているに違いない。 アレンはそれを悟ったのだろう。 ゆっくりと話し始める。 「僕ね、最近此処に、この世界に、生きている実感がしないんだ」 額に眉を寄せ、悲しげな瞳を窓の外・・・空へと向ける。 遠くを見たその瞳に今、何を映しているのだろうかとリナリーは思った。 「何を考える暇さえも与えられずに、任務の事だけを頭に置いて戦って─── それが終わっても次々とやってくる任務で、 だんだん自分が何をしたいのだろうか?って・・・。 そして、この世界に自分はちゃんと存在しているのだろうか?なんてまで思ってしまって」 その度に積み重なる幾つもの解けない思いと、傷ついたままの心。 会いたいと思う人とも、会うどころか連絡すら取れずじまいの現実に、 アレンはだんだん大切なものさえも見失いかけていた。 「アレンくん・・・」 顔を曇らせてしまったのを見て、やっぱり言わなければよかったかもと思う。 「ごめん。でもコムイさんを恨んでいるわけではないんですよ?むしろ感謝しています」 少しでも誤解されないようにと弁解する。 任務を直接エクソシストに指令しているのはリナリーの兄、コムイ・リーだ。 だからアレンは今言った事が、今度はリナリーを傷つけてしまったのではないかと心配したのだった。 「うん、それは分かってるからいいの」 どうやらそうではないらしい。 「何ですか?」 ちょっといいかしらと言って席を立ち、アレンの側に寄りそっと右手をとる。 「リナリー・・・?」 手に取った右手をそのままアレンの頬に当てた。 「ほら、温かいでしょ?」 「あ────」 頬を包むその手には確かな体温があり、とても温かかった。 生きていると思える、心地良い温もり。 此処に僕はいる、この世界に、流れゆくこの時の中に────・・・ 「自分の体温なんだよ?私でもなく、アレンくんの‘生きている証”」 「‘生きている証”・・・か」 微笑みが広がるその顔に、涙が一つ流れ落ちる。 その雫もまた、温かかった。 まるで、雨上がりの水溜りに 光が差し込んだ時みたいに──── END |