幻想歌





静かな方舟の街に唄が響く。

神田は、唄が聞こえてくる方へと歩いた。
歩いていく度に唄が近くなり、その分唄に組み込まれた詩が聞き取れるようになってきた。
歌うものが居る部屋の扉の前に立つとその唄は鮮明に聞こえてきた。
静かに瞳を閉じて聞き入る。



---・・・いくつ 祈りを 土へ 還しても
ワタシは 祈り続ける
どうか この子に 愛を
つないだ 手に キスを-----・・・・



歌声は、アレンのものだった。
やがて唄が終わり、繰り返される事は無かった。
「おい、入るぞモヤシ」
半開きの扉をノックして声を掛ける。
「神田」
ピアノのイスに蹲る姿は、マテールで見た時の姿と変わらなかった。
一人でまた何かを抱え込んでいる事はすぐに分かりえた。
だがすぐ側にある巨大な袋から溢れる食料や、アレンが歩いてきたと思われる道には食い散らかしの袋
や何かの骨が数え切れないほど道に落ちていた。
だからこそアレンが居る場所まで来れたというのもある。
神田は呆れながらピアノの少し後ろにあるソファーに座った。


「何しに来たんです?」
アレンは微かに顔を上げて自分を見ている。
だけどその顔は、今にも涙を流しそうな表情だった。
「別に、病室がうるさくて出てきただけだ」
それは本当だ。久しぶりに教団に戻り、任務中の睡眠は殆どまともにとれずにいて、眠いにもかかわら
ず病室では他のエクソシストの腹の音や声でうるさくて眠れるはずは無かった。
「だったら自分の部屋に行ったらどうですか。ここまで来るほうが手間掛かるでしょう」
それはお前もだろ。とも言おうと思ったがこんな事でまた痴話喧嘩するのは馬鹿らしかった。


だが、自分こそここに何しに来たのだろうかと思ってしまう。
勢い余って病室を抜け出してしまったが、自室には行かずに足を向けた先は方舟だった。
何故かと言えば、そこに一緒にいたいと思う人がいるからだった。
だから、抜け出した。
一緒に居たいと思う為だけに。これからなら数日だろうと一緒に居れる時間は少なからずあるだろうにも。
それでも今はただ、アレンの側にいたかった・・・。
ただそれだけの事。


そうは分かっていてもとても口には出せない。

クスリと微笑みながらアレンはイスから立ち上がり、神田が座っているソファーにアレンも座る。
なるべく神田の側によりながら。
アレンは神田の方をずっと見ているが、神田はアレンの方を恥ずかしくて見れなかった。別に意識する
必要なんてないのにも。
「僕に会いに来てくれたんですか?」
不意を突かれて、頬が赤くなるのを感じる。いつも直球に聞いてくるコイツには未だに慣れない。



続きます!すみません中途半端でっ;
08.8.12