とりあえず全員着替えをしてきて、簡単な夕食を食べていた。
イスピンはごちそうさまと行って席を立ち、皿を片付けると扉のほうへ向かった。
「はれ、イむピンさんどこ行ふの?」
口にものを詰めながら食べるな、とボリスが注意をする。
「マキシミンの借りてる部屋で待とうかなって思って。帰ってきてそのまま寝られたら困るでしょう」
ミラは笑った。
「はは、確かに寝られたら頑張ったかいがないもんな」
「はい。だから待ち伏せしてますので、それでは」
そう言うと、イスピンは扉の向こうに消えていった。
「必死だね」
「一番祝いたいのはイスピンだからな。俺はあんなやつどうでもいいけど」
「ケーキにピンキーのバラ肉入れかけてたもんな」
「去年よりはマシだ。ポイズンゼリーじゃないだけマシさ」
「バカ・・・」
「ったく、どれだけ酒好きなんだか」
マキシミンの部屋に入り、ベットに腰をかける。毛布は無造作に置かれていて、皺だらけになっていた。
イスピンは、赤と細く金色のすじが入ったリボンが巻かれた包みを抱えていた。
「早く、帰ってこないかな・・・・」
誰よりも一番にマキシミンに"おめでとう"と言うと決めていた。
誰からのお祝いよりも先に、喜ばせたくて・・・・───
「・・・・ねむ」
今日一日、街で買い物から宿屋での準備などを人一倍に頑張って作業していたのだ。昨夜も、今日のこと を考えたりしてそれほど寝ていなかった。体を横にすると、自然と瞳が閉じられた。
窓の外に見える木々の囁きが、夜の眠気を誘っていた。
夜11時をだいぶ過ぎた頃、台所のデーブルで待機していた者たちは、すでに眠りについていた。足音だ けが響く静かな廊下をマキシミンは歩いていた。
「思ったとおりだぜ。バイト最終日なのにコキ使いやがって」
コートは腕に掛けられており、眼鏡はYシャツのポケットに挟まれていた。帰って来たらまっさきに寝る ことへの準備は出来ているらしい。
「ま、これで暫くの間は余裕の生活だな」
酒.酒.酒、と陽気に呟きながら進んでいった。
自室の扉を開き、ベットの前まで来て立ち止まった。
「──!」
枕と毛布があるだけのそこにはイスピンが横になって眠っていた。
「なんでこいつ・・・」
なぜマキシミンのベットで寝ているか訳の分からないマキシミンは、ふとイスピンが抱えている物に気 づく。
包みのリボンに、一つの真っ白な薔薇とメッセージカードが挟まれていた。
カードにはシンプルにhappy birthday to.maximin・Liebkne と書かれている。
「あ・・・」
すっかり自分が今日誕生日だという事を忘れていた。
きっとイスピンはわざわざプレゼントを渡すためにこの部屋で待っていたのだろう。
まったく、と溜め息を漏らしながらも、口元は微かに笑んでいた。
ベットに腰を掛け、手入れされた綺麗な黒髪を触る。
「まったく、公女さまの気も知れねぇな」
髪を撫でていた手をシーツに当て、そっと頬に。。。───
マキシミンも相当眠気が差していたので、そのまま眠りについた。
街は眠りにつき、それぞれの夢をみる。
白い薔薇にふわりと包まれるやわらかな夢を───・・・・
HappyBirthday.....
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