「おっユウいたいた!」 教団の外、森の中でラビは神田の姿を見つけて走る。
いつも神田が外で鍛錬しているあたりは記憶していた。
「みっけー。また夜に修行さ?」
神田はラビを見るや否、顔をしかめた。あたりは闇に包まれていたが、その表情はラビにははっきりと
見て取れた。
「そんな顔しなくてもいいじゃんかー」
「はっ、お前が来るとうぜーんだよ」
キッパリと告げる神田に慣れたとは思っても、少し傷つく。
神田は手にしていた六幻を鞘に収めた。
「今日は七夕さー。星、出てるけどユウはどの星が神話に出てくる星だか分かるか?」
空を見渡す。それらしい星を見つけたが無視をした。
「さぁな」
「むー、本当は知っているくせに。オレ知ってんだぜ?星について少しは知っているんだって」
「じゃぁお前だって知ってるんじゃないのか?ブックマンのくせに」
どっちもどっちなセリフに、二人は笑う。
「なぁなぁユウ」
星を眺めながら、この日とばかりに聞こうと思っていたことを口にした。
「やっぱり、恋人としてはムリなんさ───?」
「何をコイツは」
神田は殴ってやりたいと思ったが手を止め、一番低い位置に伸びている木の枝に座る。
「やっぱり、ムリなんさね」
「当たり前だ。気色悪ぃ」
想像した通りの回答だった。
ガードが固く、ストイックな彼を自分のものにしたいだなんて発想から間違っていたのかもしれない───
と自覚した。今更──だが。
「ホント、難しいよな」
呟くが、神田は空を見上げていて聞いていないようだった。
これは裏歴史を記録する以上に、ラビにとっては難題だった。
だけど恋人という立場だけが、その人にとっての最上位にあたる人物ではないという事に気づいていた。


それなら・・・きっとそれなら・・・

───手に入らないなら、恋人以外の最高の位置に就こうじゃないか・・・


「は・・・?」
ポカンと口をあけ、硬直する神田。
それを見てどうしたのかと思ったが、すぐにラビはギクりとした。
「あれ?オレ、口に出してた?」
「ぁ、あぁ・・・ハッキリとな」
するとラビは、大げさなくらいに腕を頭に乗せ、膝を着く。ぶつぶつと何かを呟く姿を目の前で見なが
ら神田は頭を掻く。
溜め息をつきながら聞いた。
「・・・最高の位置って?」
まさか神田から聞かれるとは思っていなかったので、少し耳を疑った。
答えないでいるラビにもう一度神田は聞きなおす。
「だから、その最高の位置とは何だ?」
空耳では無い事に驚くが、すぐに平常を取り戻した。
立ち上がり、少年らしい明るい笑顔を向けた。


「だ・か・ら、"親友"という素敵な位置にさっ」