龍泉卿にあるレストランで二人は休憩をとった。
イスピンは開かれている窓から手をかざす。一分もしないうちに手のひらは水滴で濡れてしまった。
「雨だ」
「けっ、湿っぽいと思ったら」
振り向き、窓枠に寄りかかる。視線の先にはマキシミンが食事をしていた。
「今日、七夕なんだけどな」
「だからどうした。七夕なんか関係ないじゃないか」
「伝統行事なんだよ?七夕行事ではカウルが一番盛大に祭っているらしい」
もちろん龍泉卿も次に大きいけど、と付け加える。
そんなものには興味ないと眉根を寄せながらハンバーグを口にほおばる。
どうせそんなもんだろうなと呆れるイスピンの横を、小さな子供が母のことを呼びながら駆けていく。
「雨がね、今降ってきたんだよ!」
あらあらと、優雅な仕草で食べるのをやめ、子供の方に向き直る。
「お空にいる織姫と彦星は会えないの・・・」
その子供のお母さんは、窓の外を見る。
間を置き、言った。
「会えたのよ」
「ぇっなんで!?」
傍で聞いていたイスピンも思わず"えっ"と口に出してしまった。
「多くの人は七夕の日に雨が降ると、天の川に水が溢れ、川を渡ることが出来ないといわれているけど
ね、本当は違かったりするのよ」
イスピンは母親の傍まに寄って聞いた。
「違うんですか?」
その母親はイスピンに軽く会釈をして微笑む。
「えぇ、一部の方々には雨が降るというのは、天にいる二人が再会をして嬉し涙を流した。とも伝えら
れているのよ」
「そうなんですか」
初めて聞いたことに信じられないという思いだった。
隣にいた子供は、驚く様子もあまりなく、喜んではしゃぎまわり始めた。
「ふふ、そんな言い伝えもあったなんて知りませんでした」
それを後ろでずっと見ていたマキシミンが、頬杖をつきながら口を挟んだ。
「ったく、一つの神話でぽんぽんと違う内容が出てくるわけだ」
「ちょっと!マキシミンはいつもそうなんだから」
イスピンはマキシミンが掛けているメガネをさっと取り上げる。マキシミンは、おい!と叫びながら立
ち上がると、ナイフとフォークが音を立てて床に落ちる。
懸命に取り返そうと手を伸ばしてくる姿を見てイスピンは意地悪な笑みを浮かべた。
「少しは皮肉るの直せば?」
「別に旅に支障なんかないだろ」
「多いにあるよ。人とのコミュニケーションとか」
二人の様子を、その母親は見つめていた。
「・・・あなたに逢えるなら雨だって何だって 」
『──?』
急に不可思議な事を言い出した子供の母の方を向いた。その隙にマキシミンはメガネを取り返した。
「旅をしているのですね」
「そうですが」
「きっと旅の中ではいろんな事があると思うわ。もしかしたら離れなければいけなくなることもあるの
かもしれない。だけどその人を大切に想っている限り、会えるはずだわ」
何の事なんだかさっぱり分からない二人は首を傾げる。
「まぁ、今は関係ないでしょうがね」
そういうと母親は立ち上がり、子供の手を引き二人にお辞儀をして出て行った。
「・・・。まったく、話通じるように言えって」
もう扉の向こうへ消えてしまったので、聞き返すこともしなかった。
占い師なのだろうか・・・?
理解できず日が経つと、すっかり頭から忘れていた。

後になって、知るとも知れず───

そんな忘れていた日を思い出していた。その時自分の隣にいた"パートナー"は今、隣にはいない。
多分・・・どこかにはいるのだろうと思う。
どこにいるかも知れず、安否すら不明な現状で再会だのと途方も無い話なのだが・・・
「──あなたに逢えるなら雨だって何だって。か」
空を見上げるとあの日とは違い、星が輝いているのが見える。
「会えた時はどんな天気だろうか」
雨だったら、どこの神話だと笑い飛ばすだろう。

再会したらなんて言おうか──。

考えただけでその日が早く来て欲しいと願う。




***あとがき 七夕のエピソードかと思えば回想でした☆というオチ。なんちゃって七夕でした・・・っ(←
微妙にEP2要素がありますが、ほんと早くCPで再会してほしいな〜と!そして再会シーンを想像するのが
醍醐味です。笑  最後をどう書くかにかなり時間が掛かってしまったので最後が微妙ですみません。
あと子供の母親は占い師系です。カーディフにもいる方とは違うけど。
最後にセリフを言っていた人物はマキシかイスピンかご想像にお任せします。
08.7.7